どこまで続いているのだろう。ボクは適当な大きさの石に腰掛け、目の前に広がる荒れ果てた大地を眺めていた。足跡、車輪、蹄―――それらを無造作に刻んだ道は、まだまだ遠く遠くへと伸び続いていた。駅舎を出て3日経ち、次の町すら視界に入ってこない。
「おーい、大丈夫か?」
大きく揺れた鞄から、ブックの不安そうなハスキー声が上がった。
「あのさ、そろそろまずいんじゃないの」
見えているわけでもないのにするどい勘をしている。すでに何もしていなくても、足の裏は前後に引っ張られるような激痛に苛まれていた。
「今日も野宿だな」
ボクは深く息を吐いた。
「……すみません」
申し訳ない気持ちになりながらも、せめて冷たい風が当たらない適切な場所はないか見渡した。すると前方に、何かぼんやりと影が見えた。
なんだろう。気になって、痛いのを我慢してそこまで歩いてみた。
肩を揺すられ、ボクは目を覚ました。横でドロシーが膝をついて顔をのぞかせていた。いつの間にか横になって眠っていたようだ。
「相当疲れていたようね。いくら揺すっても起きなかったよ」
まだ頭の中がぼんやりとしていた。身体を起こすと肩から毛布がずれ落ちた。それにボクは目を丸くした。
「降りておいで」
「あの……」
毛布を端と端を合わせ、幌をめくったドロシーを呼び止めた。
「毛布、ありがとうございました」
「真面目だね」
軽く鼻先で笑われて、ボクはさっと顔が熱くなった。彼女はお構いなしに荷台から飛び降り、瞬時に幌が下がった。
「……ブックさんは、ここでおとなしくしててくださいね」
「そりゃないよ!」
ブックの不満な声を背に、後ろの幌をめくった。いい匂いが漂ってきた。荷馬車は視界の利く荒野に止まっていた。ボクはまだふらつきながらも、荷台から降りた。
天井代わりの布の下はオレンジ色の染まり、その中であご髭の傭兵が鼻歌交じりに、杓子で鍋のスープをかき回していた。
「できたぞ」
横に3つ分のお椀があることにボクは戸惑った。毛布のことといい、彼らから見れば部外者である自分にどうしてここまでしてくれるのだろう。
「遠慮するな」
そう言って、彼はスープをよそったお椀をボクに差し出した。
「ボクなんかが頂いて……」
「出されたものは食べる。粗末にすることは許さない」
彼女はお祈りのように唱え、そのまま食べ始めた。
「ケチなオーナーがこう言っているんだ。食べなさい」
「節約名人と言って欲しいね」
だが、ライはこっそり、
「彼女は妙なところで、せこいオーナーなんだ」
と耳打ちした。宿屋の残り物を貰って食いつないだり、町外れで野宿しながら、日々を過ごしていると話してくれた。
「ここのところ赤字だからな……」
そう言っているわりには、ライ本人は逆に楽しんでいるかのように見えた。広い世界にはこういう風にして生きている人たちもいるのだなと、感心した。
「話しもいいけど、冷めるよ」
「あ」
ずっとお椀をもったままだった。確かにすこしだけぬるくなっていた。
「それでは、いただきます」
丁度いい具合の温度になっていたから、食べやすかった。焚き火が心地よく弾じいた。
そういえば……、ボクは橙色の火を見て思い出した。村にいた頃も家族とこうして火に囲んで、食事をしながら会話をしたな。
懐かしくもあった。悲しくもあった。