鏡の国のアリス



アリスと聞けば、真っ先に「不思議の国」を浮かべる人が多いと思います。「鏡の国」はその姉妹作です。「不思議の国のアリス」ほど読まれていませんが、私はこの「鏡の国のアリス」の方が面白かったです。
「鏡の国」は「不思議の国」とはまた違った世界観でした。チェスのルールを基にして、鏡という現実とは対の世界をもつしっかりとした構成になっていました。ここではアリスは白のポーン(歩)として参加し、女王になるまでの「詰め」の過程を示していました。

鏡の中があべこべの世界であることが、文章中にもよく表れています。例えば、見えている方向とは逆に歩かないと目的地に行き着くことができないこと。同じ場所に留まるためには力いっぱい走らなくてはならないこと。そして、喉が渇いたときには乾いたクッキーを食べるとよいという考えなど。一見へんてこで、普通だったらありえないことですが、この鏡の国ではそれらは理に適っています。

この作品は遊びの要素、歌が多いことが特徴的です。アリスの物語はよくゲームが出てきます。鏡の国では物語そのものがチェスそのものですし(不思議の国ではクローケンゲームなどが出てきます)、また文章そのものが言葉遊びとなっています。物語のなかで、よくマザーグースの歌が出てきています。中にはパロディに書かれているものもありました。その歌にそった出来事やキャラクターがでてきます。ティードルダムとティードルディー(ディズニーの不思議の国のアリスに出てくるあの双子です。実は鏡の国で出てくるキャラクターなのです。)、ハンプティー・ダンプティ(一番お気に入りのキャラクター!)などがそうです。

アリスが行く先々に出会うおかしな住人たちは、変わり者で頑固者が多いです。けれど、彼らを現実に存在する私たち人間と重ねてしまうので、親しみを感じます。そこの住人とアリスのやり取りは面白いですが、実は知的で難解だったりします。本当にアリスは10歳の少女なのかと、読んでいて疑ったこともあります。

アリスの物語は、けして幻想的なファンタジーな世界ではありません。どちらかというと不気味さとおかしさを混ぜ合わせた感じです。にもかかわらず、子供だけでなく大人でも楽しめます。ルイス・キャロルが本の中に散りばめた”遊び”が、そうしているのではないかと思います。

参考文献
「鏡の国のアリス」
ルイス・キャロル 作
生野 幸吉 訳
ジョン・テニエル 画
福音館書店


2004/03/14 黄伊魔


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